このサイトは小さな奇跡を紡ぐお二人の物語です。

2022/10/31

三年七ヶ月〜前を向いてボチボチと〜

広がり

今月は先日発行された日本自立生活センターの機関紙「自由人」に寄稿された
お二人のお話をご紹介したいと思います。
障害を持ちながらもそれぞれに自立生活を送る方たちとの
また新しいご縁ができたことに、
感謝の言葉をいただきました。では、どうぞ。



「帰ってきたけれど」


在宅生活に入って三年七ヶ月になる夫婦です。二人とも今年七十才になります。
夫が脳梗塞で倒れてから五年目を迎えました。
病院に入院中は、毎日欠かさず病院に通い「必ず家に帰ろうね!」と励ましながら
五00日余り、いよいよ念願が叶って退院。
二人で自宅の玄関を入った途端に涙が溢れました。
いざ在宅生活に突入はしたものの、訪問の方々が次々に来られて「あれよあれよ」と言っている間に夜になって…対応に追われてしまう始末。

ふと我に返って「あっオムツは私が替えないといけないんや!」さて何回用のパッドを使うのかしら ? 病院で手伝わせてもらったけれども実際に自分がするとなると、頭の中は真っ白になってしまって身体を横にしようにも重すぎて動かない。「えらいこっちゃ!」まあ何とかなるやろうからといろいろ考えながらベッドの周りをあっちへこっちへ、どうにか交換ができたら四十分もかかっていた。」一月だというのに汗だくになりました。排尿って一日にどれくらいかしら?自分が検尿の時に紙コップで…あれは何ccだったのか?次の交換は何時間後?夜中は何回用を使えば良いの?一息ついて食事(胃瘻をしているので管で注入する)をセット。不安でじーと見ていて一時間程で終了。ほっとして後かたづけをしてから痰の吸引を終え、ふと時計を見ると三時間が経過していました。

 私のご飯はいつ食べればいいの?誰も答えてくれないし、夫はスウースウ ー眠っている。「これからはこれが毎日続くんやなぁ!」また次のパッド交換をしなくては…。オムツパッド・おしりふき・淫洗用のお湯(はちみつの容器を使用)等を台の上に並べていざ!そんなこんなの間に夜半、二十二時にな ってしまっていた。
 この体験から三年と七ヶ月を経て今では殆ど自分流にこなせるようになりました。夜中に呼吸困難になったり、熱が下がらなかったり…!

私はいつも思うのですが、意識がないまま救急搬送されて〜気が付いたらベッドの上に寝かされ、気管切開もされていて声が出ない、話す事も食べる事もできない。自分で横を向く事もできない、上を向いて寝ているだけ!オムツ交換時にパジャマまで濡れている時には身ぐるみはがされて素っ裸で寝転がされて、この上ない恥辱を受け地獄そのものだと…。尊厳も何処吹く風!「命が助かって良かった、良かった」と周りの人たちは言ってくれるけど何も良くはない。自分で何もできずに生き続ける事になる。こんな悲しい生き方を果たして望んでいるだろうか?もし自分だったら生きていたくないと思う。命を絶つこともできずに…

わたしは彼に「命が助かって良かった。生きていて良かった。」と思ってもらえるような毎日を作ってあげようと決心し、家に連れて帰りました。

最近彼に話しかける中で「在宅介護生活に入って介護を受ける立場で、何が一番大変そうに感じる?と尋ねると「便が出てオムツを交換している時」と答えてくれました。思わず「心配しなくていいよ!気を使わなくていいよ!ウンチの世話をする事も、吸引する事も、注入する事、口腔ケアをする事etc…全部含めて介護だから」と言いました。

「生きててくれてありがとう」「一緒に楽しい事をいっぱいしようネ!」と
いつも言います。

彼は「今が一番良い」と五十音表で伝えてくれます。

口腔ケアをしている最中に口の力が保てなくてガチッと噛まれる事があります。
その時の力って本人の意思に関係なく凄く強くて、めちゃくちゃ痛いです。
だけど口腔ケアは絶対に必要で、口の中の菌を少しでも減らせてあげないと誤嚥性肺炎に繋がると思うので、一日に数回行います。
それによって痰の質も変わってくるので尚更です。

朝から夜寝るまで手を抜ける介護って何も無いです。しかしこれが彼の寿命に繋がると信じています。
もしイヤイヤ介護をなさっておられる方がいらっしゃったら周りに助けを求めるべきで患者さんにとっても不幸です。

介助者が他にきになる事を抱えながら介護するのは、結局不幸になっていくだけで「この人がいるから何もできない」とか「この人のせいで迷惑だ」と思い込んでしまうと大変な事になってしまうと思います。

常に健康で健全を心がけなければ、介助と排除は隣り合わせで潜んでいるのでは?「もし自分が反対の立場だったら」と考えてお世話してあげてほしいと願います。
夜寝る前に「今日もありがとう!生きていてくれて」「私のために長生きしてネ」「おやすみ」・朝目覚めたら「おはよう、今日も元気に過ごそうネ」と声をかけます。
「ウンウン」と頷いてくれるだけで励みになります。

最近四回目のワクチン接種を受けましたが、発熱と共に左肩から腕が上がりにくくなってしまって介助作業に時間がかかってしまいます。痛みも伴うので…大変です。
副反応相談受付コーナーが設置されているとのアドバイスをいただきましたが、夫を一人にしておいてまで行っても対応策は望めないと思うので行く気にはなれません。

このまま老化を引き出してしまうのかも?とチョッと不安になりますが、
できるところまで二人で頑張っていこうと思います。
しっかり前を向いてボチボチと。



〜日本自立生活センター「自由人86号より」〜



ありがとうございます。




                      T・K


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